
絣とは、よこ糸又はたて糸、あるいはその両方の糸を染め分けて絣糸を作り、織り合わせることで柄を表現した先染めのこと。防染された部分は白の地色で残るが、括られた部分に染料が浸透して想定外の表情に染まる。この表情こそ絣の特徴だ。50以上の製造工程を経て作られるため、大変高価な衣料品でもある。
その昔、農家では重税に苦しみながらも収穫祭や行事のために高価な絣でしつらえた着物を着たという。それは絣に織り込まれた井戸や稲、また雪や牡丹、亀甲など縁起のよい意匠が、辛く苦しい庶民の心を鼓舞し、彼らもまた、それをまとうことを誇りとしていたからだ。しかも肌触りが良くて強度があり、染料の藍に虫よけの効果があることから、日本製のワークウェアのルーツとして知られる絣製「もんぺ」は非常に重宝されるようになった。
そんな絣は日本三大絣、「久留米」「伊予」「備後」が生産の中心地。中でも広島県福山市の備後絣は機械化で量産化を成功させたこともあり、飛躍的発展を遂げた。江戸時代にはじまり、明治元年に大阪で量販の道を拓いた備後絣は、一九六〇年代前半に全国シェアの七割を占めるほど生産したという。しかし洋装中心の新しいファッションの台頭や化学繊維の普及、また海外の製品に押されて絣の生産が激減。現在では残念ながら生産者もほとんど残っていない。
「b×c」は福山市芦田町の備後絣を使用しているが、染め、括りなど職人の高齢化により絣文化の継承そのものが困難なのが実情だ。若い世代がその技を継承してゆく可能性も低い。先人たちの思いと熟練の技が結集されたメイドインジャパンの生地、絣。働く意味が希薄になりつつある現代の若者にこそ、袖を通してほしいと願ってやまない。

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