インサイドレポート
連日の好天の中、2008“NANKAI”鈴鹿Mini-Moto4時間耐久ロードレース・OPENクラスには128ものチームが参加しました。例年、全日本現役ライダーや世界GPで戦っていた著名選手、俳優の岩城晃一選手なども参加され、とても華やかなイベントとなっています。我々のチームde"LIGHT with scuderia Taisei Printing は、全日本選手権(JSBクラス)にも参戦するバイクショップ『de"LIGHT』の有志で結成したミニバイクチーム。年に一度、この鈴鹿Mini-Motoの為にメンバーが集まって3年目になります。
参加するMini-Moto OPENクラスは、いわゆるミニバイクの“全日本頂上決戦”と言えます。排気量125cc以下のエンジンを搭載したミニバイク車両をベースに、エンジン・フレームを含め幅広い改造を可能としています。全国各地のレース・コンストラクタ−達がその優れたチューニング技術をわずか100ccほどのエンジンに注ぎ込むことで、世界でも類を見ない超高性能競技エンジンに変貌させます。そのあまりに過激な性能向上により、昨年から性能を低下させる「リストリクター(空気の流入量を制限する部品)」の装着が義務付けられたほど。それでも最高速度が170キロオーバーのマシンもあらわれるのですから驚きです。
申し遅れましたが、このレポートを書いている私は、ライダーの前田と申します。今回リミット通販さんがB×C(ビーバイシー)のチームウエアをサポートしてくださって、ライダー3名とスタッフ13名、総勢15名の大所帯チームの雰囲気も例年になくアップ。昨年は42位で完走したので、今年はさらなる結果(30位以内)を残そうと1年間準備してきました。エントリーする3名のライダーは若くもなくプロでもありません。それぞれに仕事や家庭がありますので、各自無理のない範囲で“戦う”予定です。
さあ、今年はどんなドラマが待っているのでしょうか。
●5月16日金曜日:真夏を思わせる天候になった公式練習1本目。ACEライダー・片岡選手の駆るマシンがダンロップコーナー先でエンジン停止。走行わずか2周で組み上げたばかりのエンジンがブローしてしまうというトラブルに見舞われました。搭載しているデータ・ロガーを確認すると壊れるような走りをしていない。とにかくエンジンを開けてみなくては判らない…。なんと本日はここで終了。
●5月17日土曜日::翌日はSTクラスが開催されるので、終日参加チームのお手伝い。昨日のトラブルはバルブ周辺の損傷とのことが判明。時間的に修復が難しいことから新品パーツを手配。短期間に希少な部品を“どこからか”入手してくるなんてスゴイです。あとは無事にパーツが届き、メカニックがガレージで組み込むのを待つのみ。
●5月18日レース当日:サーキットの朝は早く、午前6時にはメンバーが続々とサーキット入り。何とか昨晩出来上がったエンジンだが、まったく慣らしをしていないので、アイドリングでのエンジン慣らし。午前中の予選に向けて全員がピット内で慌ただしく働く。ヘルパー達が朝食の準備をしてくれるのがありがたい。
予選時間が近づく。走行台数が多いため予選アタックはAとBの2組となり、我々はB組。予選はできるだけ前方でコースインしたいが、考える事はみんな同じで、コースインゲートの良い位置にマシンを並べるのも当然競争となる。もうこの辺りの熱さは全日本選手権のよう。サーキットにいる人々の気持ちが一斉に昂る瞬間が、いよいよはじまります。
ACEライダーがコースインして予選開始。本調子とは言えないマシンをちょっとでも速く走らせたいため、ライダーは走行中にあれこれ考えます。大型バイクのレースとは違う独特のテクニックがMini-Motoには多数ありますが、その中でも特徴的なのが「スリップストリーミング」の使い方です。軽量・小型のバイクが高速走行をすると、空気抵抗によるパワーロスも案外馬鹿にできません。前方走行マシンの直後もしくは斜め直近に近づくことで、前車が切り裂いた空気の渦に自身が潜り込む事が可能となり、空気抵抗が大幅に低減します。スリップに入るとエンジン回転数が上昇し、それまで抜けなかった前車を容易く抜き去る事が可能となるのです。昨年STクラスで優勝した某チームは、単独で時速120キロ程度しか出ない実力のマシンを、スリップを多用する事で150キロ以上の速度にまであげる事に成功した程です。
ピット内のモニターには、昨年と変わらないタイムで通過するの片岡選手の姿が映し出されて、一同焦る。というのは決勝進出は100台だが、上位50台以内に入らないと前組出走できない(100台が一斉にスタートすると危険なため、2組に分けてのスタートとなる)ため、決勝での上位進出が厳しくなるからだ。予選ラストラップ、片岡選手が激しいバトルをしながら最終コーナーをスリップを使って駈け降りてくる。トップチームの後方にピタリとつきながら我々の前を通過し、前周より2秒ものタイムアップを実現して午前中の予選を終えた。無事にピットへ戻ってきた片岡選手だが、ここでまた問題発覚。キャブレターがオーバーフローを起こしガソリンが漏れているではないか。ゴミが入っただけなら良いが…不調の原因を確認するため、ショップへマシンを持って行き、本格整備を行なう事に。フルチューンドエンジンはガラス工芸品の様でとても神経を使います。
その間の昼休みには様々な方がピットに訪れてくださいました。ちょうどB×Cのブースを出していた事もあり、我がピット裏はちょっとした人だかりに。元ホンダワークスの宮城選手、元ヤマハワークスの糟野選手、オーヴァ−レーシングの佐藤社長などなど。雑誌社やテレビ局、各種メーカーさんもB×Cを中心に話の輪が広がっていたようです。やっぱりモノづくりをしている人にはB×Cのコンセプトが気になる様ですね。試着された方も、普通のポロシャツと全く違うフィット感や機能的なポケットの位置などに驚いておられました。
さていよいよ決勝、正式予選順位は52位。毎年予選のレベルがアップするため、惜しくもコンマ3秒足りずに前半出走を逃しました。しかしまだまだ可能性はある!メカニックのセットアップしてくれたマシンが決勝前に届いて、準備万端。コース上には大勢のレースクイーンが派手なパラソルで美しさを競っていますが、走る本人達は目に入らない様です(笑)。午後3時、ルマン式スタート(シグナルと同時に駆け寄ってバイクに乗る方式)で4時間の耐久レースが始まりました。
我がチームのスタートライダーは片岡選手。1時間の走行で私につなぐ予定。スタート直後は順調な滑り出しでポジションをキープ。長丁場ですから、できるだけコンスタントに走り続ける事が大切です。
しかし30分を過ぎた辺りからタイムにバラツキが出てきました。クルーがサインボードを出し、あと3周でピットインだという事を伝えますが、突然翌周にピットイン。ピットではガソリン補給の係やタイムキーパー、メカニック、消化器係が大慌てで準備します。もちろん第2ライダーの私も大慌てですが、片岡選手が手ぶりで私を呼びます。???嫌な予感。
片岡選手: 「エンジンの音を聴いてみて」
ガラガラとした音がエンジンから聞こえる。
私: 「ヘッド廻りからの異音ですね。このままだと壊れますね」
片岡選手: 「どうする?リタイヤする?」
私: 「…エンジンを開けて見てみましょう。駄目なら、諦めましょう」
片岡選手: 「OK!」
ピットにマシンを入れ、皆で一斉に作業をはじめます。ヘッドを分解すると、昨日修理したばかりの部分が再び破損していました。念のためピストンとシリンダーをチェックしましたが、特に異常なし。破損部分のパーツを探してもサーキットにはありませんから、方々に連絡して何とか入手。無事に組み込みんだ時点では、既にスタートから3時間。レースは残り1時間しかありません。次は私の走行なので、猛ダッシュでレザースーツに着替えます。
ピットロードを飛び出して、徐々にタイムアップしながらマシンの調子を確認。小さなカウルへ潜り込むようにストレートでは小さく伏せ、マシンの回転はやや落とし気味で走行。午後6時を過ぎ、薄闇の中をライトON。無数の虫がヘルメットのシールドにぶつかっては散ってゆく。そしてクルーのサインボードを確認し約30分でピットイン。
3回のライダーチェンジをしなくてはいけないルールがあるので、もう一度片岡選手が走ってから最終ライダーの日置選手へ。バッテリー交換とガソリン給油を行ない日置選手がコースイン。最近目の調子があまり良くないので、夜の高速走行は慎重にライディング。それでも60歳とは思えないアグレッシブな走りで、夕暮れのホームストレートを駈け抜けてゆきます。
残り時間5分。多くのクルーがピットやアストロビジョンを見つめる中、大波乱が。
シケイン走行中の他チームのマシン同士が接触・転倒。その転倒車両がこぼしたオイルを踏んで次々と後続車両が転倒。十数台のマシンが多重クラッシュに巻き込まれる事故となり赤旗レース中断。そしてそのままレース終了という後味の悪い結末となりました。幸い、日置選手は巻き込まれる事なく現場を通過し、今年のレースを無事に走り終えました。
職業も、年齢も、性別も、住んでいる地域も違う人々が、同じユニフォームを着て、同じ空気を共有する。
チームとは、同じ夢を見る仲間という意味なのかもしれません。
そしてレースには「たら・れば」はありません。
今回も様々なドラマがありましたが、これを共有できるのもレースの良さだと思います。
どうやら、悔しさがまた来年の鈴鹿へと向かわせる新たな原動力となりそうです。
応援して下さった皆さん、本当にありがとうございました!!
#28 チームde"LIGHT with scuderia Taisei Printing
前田義生 AGE:42
片岡 誉 AGE:47
日置良平 AGE:60
チーム員一同
協力:(有)デイライト・(株)大成印刷・(株)スクーデリア・(有)アイポット・かき家
ユニフォーム協賛:リミット通販(株)